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大阪地方裁判所 昭和56年(ヨ)862号 決定 1981年8月10日

申請人 吉塚健三

<ほか一四名>

右申請人ら代理人弁護士 西本徹

同 峯田勝次

同 西枝攻

被申請人 東洋鉄線工業合資会社

右代表者無限責任社員 梶田倫正

被申請人 日商岩井株式会社

右代表者代表取締役 田中正一

被申請人 株式会社長谷川工務店

右代表者代表取締役 合田耕平

右被申請人ら代理人弁護士 笹川俊彦

同 山上東一郎

右笹川俊彦復代理人弁護士 礒川正明

主文

一  申請人吉塚健三、同西村良一、同福本成男、同藤原定丸、同榎本愼、同渡邊敏孝、同頼政博治、同上島秀郎、同澤井克美が共同して七日以内に被申請人らに対し一括して金九〇〇万円の保証をたてることを条件として、

(一)  被申請人株式会社長谷川工務店は、別紙物件目録(一)記載の土地(但し、換地処分後の土地は別紙図面(一)記載の朱線で囲まれた部分)上に建築中の鉄骨鉄筋コンクリート造一一階(一部一〇階、一部九階、一部塔屋)建共同住宅で建築面積一七三三・三七平方メートルの建物のうち、別紙図面(二)の1、2の赤斜線部分(平面図の青斜線部分のうち、G・L面より高さ二〇・七メートルを超える部分)の建築工事をしてはならない。

(二)  被申請人東洋鉄線工業合資会社及び同日商岩井株式会社は、自ら右建築工事をなし、又は第三者をしてこれをなさしめてはならない。

二  右申請人らのその余の申請及びその余の申請人らの申請をいずれも却下する。

三  申請費用中、申請人北村仁一、同畠中博、同東條子隨、同北林道夫、同清水昌男、同阪東芳子と被申請人らとの間に生じたものは同申請人らの負担とし、その余の申請人らと被申請人らとの間に生じたものは被申請人らの負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  本来的申請の趣旨

(一) 被申請人株式会社長谷川工務店は、別紙物件目録(一)記載の土地上において、同目録(二)記載の建物の建築工事をしてはならない。

(二) 被申請人東洋鉄線工業合資会社及び同日商岩井株式会社は、自ら右建築工事をし、又は第三者をして右建築工事をさせてはならない。

2  予備的申請の趣旨

(一) 被申請人株式会社長谷川工務店は別紙物件目録(一)記載の土地上において、同目録(二)記載の建物の建築工事中、別紙目録(三)記載の部分の工事をしてはならない。

(二) 被申請人東洋鉄線工業合資会社及び同日商岩井株式会社は、自ら右建築工事をし、又は第三者をして右建築工事をさせてはならない。

二  申請の趣旨に対する答弁

申請人らの申請を却下する。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  当事者

(一) 申請人ら

申請人らの所有もしくは居住・使用する土地、建物に対する各権利関係は別紙物件目録(四)記載のとおりであり、そのうち申請人頼政博治(以下単に姓のみを称し、他の申請人らについても同様とする。)、同上島、同澤井、同北林は同清水から同目録(四)記載の各該当土地を賃借し、また申請人福本は同阪東から、同藤原は同畠中から、同榎本は申請外株式会社関西工芸社から、申請人渡邊は同東條から、それぞれ同目録(四)記載の各該当建物を賃借している。

申請人らのうち、建物を住居専用としているのは申請人福本、同頼政、同上島、同澤井、同北林らであり、住居兼事業所としているのは申請人吉塚、同北村(但し、同人は右建物において、父亡仁平と共同して北村鉄工所を営んできたところであるが、父仁平が昭和五五年一〇月三〇日死亡したのちは、申請人北村において右鉄工所をひきついでいる。今後もその予定であり、同人はこれまで大東市に居住して、右建物にある鉄工所に通勤してきたのであるが、父仁平の死亡により、本件建物二階に近々移転する予定である。)、右西村、同藤原、同渡邊らであり、事業所もしくは借家借地としているのは申請人畠中、同榎本、同東條、同清水、同阪東である。

(二) 被申請人ら

被申請人らはいずれも肩書住所地に本店を置く会社であり、被申請人東洋鉄線工業合資会社(以下単に東洋鉄線と略称する。)及び同日商岩井株式会社(以下単に日商岩井と略称する。)は別紙物件目録(二)記載の建物(以下これを本件マンションと称する。)の建築工事(以下これを本件建築工事と称する。)の共同事業主であり、被申請人株式会社長谷川工務店(以下単に長谷工と略称する。)は本件建築工事の設計をし施工するものである。

(三) 当事者間の折衝経過

(1) 申請人らに対し、昭和五五年一二月二一日ころ、被申請人長谷工及び同東洋鉄線から本件建築工事の通告がなされ、そのころ申請外小越組が東洋鉄線の工場解体を開始した。この解体工事のため、申請人らはすさまじい騒音、振動に悩まされ、昭和五六年一月六日、申請人らを含む約五〇世帯の住民によって、「中本五丁目環境を守る会」(以下単に守る会と略称する。)を結成し、同時に長谷工に対し、どのようなマンションを建築するのか説明を求めたが、長谷工は、図面、資料が整っていないとの理由で説明会を遅延させたが、ようやく昭和五六年一月一六日、第一回の説明会をもたせるに至った。しかしこの説明会では、長谷工は数種の図面を提出したものの、縮少図面のため、記載文書、数字の判読不能のものが多く、ただ原図の説明にとどまり、当面の損害たる解体工事につき地盤調査もしていない有様であった。そのため守る会は、即刻解体工事を中止するように申し入れたが、長谷工は翌一七日、解体工事に伴う被害保障を行う旨の念書を入れたにすぎなかった。

守る会は、右念書を検討したところ、未だ不備な点が多く、即刻、追加念書の提出を求め、長谷工は同年一月二一日、前記念書を詳しくした「回答書」を守る会に提出した。

(2) 同年二月二日、守る会と長谷工は第二回目の交渉を行い、守る会は、マンションの建築自体には反対しないものの、東洋鉄線の広い敷地の中で、何故わざわざ住民に深刻な被害を与える北側寄りにマンションを建てるのか理解できない旨主張し、建設位置変更を求めたが、長谷工は、事業主たる日商岩井、東洋鉄線の委任を受け、一切位置変更できないとの強硬な姿勢に終始し、住民の要求に一歩も譲歩しなかった。

(3) 同年二月一三日、守る会は第三回の交渉を長谷工ともったが、長谷工は、中止中の解体工事を二月一六日から再開し、かつ、建設位置の変更も、事業主たる日商岩井、東洋鉄線との相談の結果、やはり位置変更できない旨主張した。そのため、守る会は、同日、東洋鉄線の社長に面談を求めるも社長不在とのことで、住民の要求を伝達し、後日東洋鉄線から返答をもらうという約束を得た。

(4) 然るに、東洋鉄線は同年二月一八日に至るも守る会に返事せず、かえって、同年二月一三日の時点でマンション建築確認申請の許可を得ていた。

(5) このような状態の中で、守る会は、被申請人らがマンションの建設位置変更を全く行う姿勢がないのに失望しつつも、とりあえず、長谷工に対し、解体工事の日程明確化と解体に伴う被害保障の要求を行った。

(6) 以上のとおり、東洋鉄線は広大な敷地を有し乍ら、住民にとって最も被害が大きい位置にマンションを建築するという暴挙を平然と行おうとする姿勢を崩さず、又住民らと会おうとせず、今日まで解体工事を続行し、同年三月一〇日すぎ、解体を完了し、ひき続き本件建築工事に着工しようとしている。

2  建築予定地、被害地及び付近の状況

(一) 建築予定地と被害地

(1) 被申請人東洋鉄線は、その敷地として、別紙物件目録(一)及び同目録(五)各記載の土地を所有し、そのうち本件マンション敷地は、同目録(一)記載の土地のうち四四六八・一四平方メートルである。

(2) 右マンション敷地は、申請人藤原、同畠中、同榎本、同渡邊、同東條、同頼政、同上島、同澤井、同北林、同清水の居住・使用もしくは所有する土地家屋と接し、マンション建築部分北側と近いところで七・三メートル、遠いところで一二メートルの距離であり、申請人吉塚、同北村、同西村、同福本、同阪東の家屋南面とマンション部分北側とは、近いところで約二五メートル、遠いところで約二八メートルの距離である。

(3) 本件マンションは、被申請人東洋鉄線の所有土地のうち北側と東側に近づけられ、「」型に建築されようとしているが、マンション敷地となっていない東洋鉄線所有の土地は、南側で幅員一二メートルの道路に接し、申請人らの居住等家屋と東洋鉄線の所有地、マンションの配置関係は別紙図面(四)記載のとおりである。

なお、両地には高低がない平坦地である。

(4) 申請人らの所有もしくは居住・使用する家屋の主要開口部は別紙図面(五)のとおりである。

(二) 地域地区等の指定

申請人らの居住・使用もしくは所有している家屋の所在地域及び東洋鉄線所有土地(前記目録(一)及び同目録(五)各記載の土地)の地域は、いずれも住居地域(第一種、第二種、第三種高度地区でもない)と準防火地域の指定を受けているが、高度地区の指定、日影条例の地域及び近い将来における新たな地区指定、変更の見込などいずれもない。

(三) 規制値

本件マンションの敷地は、建ぺい率六〇パーセント、容積率三〇〇パーセントの規制を受けているが、高度制限及び日影規制はいずれもない。

(四) 付近の状況

本件マンション敷地を含む東洋鉄線の所有土地、申請人ら居住・使用もしくは所有家屋の所在地域付近は、土地の傾斜など高低はなく、又付近には本件マンションのような高層建物はなく、ほとんどの付近建物は二階建である。

3  建築計画の概要

(一) 本件マンションは、昭和五六年二月一三日建築確認許可がなされているところ、その内容は、開発敷地面積、有効敷地面積とも四四六八・一四平方メートル、建築面積一九六九・一九平方メートルで、建ぺい率三九・六パーセント、戸数二一四戸と管理人室、車両駐車台数五〇台の鉄骨鉄筋コンクリート造一一階建(エレベーター部分一四階相当)の分譲共同住宅で、高度三〇・九メートル(エレベーター部分は、別途八・二メートル存する。)である。

(二) 本件建築工事は本件仮処分申請時には未だ着工されず、かつ被申請人らはその着工日を全く明らかにしていないが、解体工事日程表によれば、早ければ同年三月一六日より行われるやも知れず、工期は一四ヶ月とされている。

4  被害

(一) 建築予定建物による日照阻害の程度

申請人らを含む前記守る会の住民らは本件建築工事によっていずれも日照阻害を受けるものであるが、特に申請人らの蒙る日照阻害は著しく、健康で文化的な生活を営む権利が侵害され、受忍限度を超えている。また申請人畠中、同東條、同清水、同阪東は、その所有する土地建物が、日照阻害により著しく価値低下の損害を蒙るものであり、所有権を侵害される。

以下日照阻害の程度につき詳述する。

(二) 具体的日照阻害

(1) 申請人吉塚

同人は別紙物件目録(四)一2記載の建物に九名で居住し、建物の西側部分を鉄工所とし、東側を住居にしているものであるが、従前冬至の際終日日照があったが、本件マンションが建築されれば、東側居住部分につき午後二時から同四時までの日照しか得られない。

(2) 申請人北村

同人は同目録(四)二2記載の建物中一階を鉄工所、二階を住居として近々居住する予定であるが、従前冬至の際終日日照があったが、本件マンションが建築されれば、日照は午前八時から同八時二〇分ころまでと午後三時から同四時までとなる。

(3) 申請人西村

同人は同目録(四)三2記載の家屋(北村の東に接する建物は菓子工場で、その東側が住居)で妻と暮しており、従前日照は冬至の際終日存したが、本件マンションが建築されれば、日照は午前八時から同一〇時までとなる。

(4) 申請人福本

同人は同目録(四)四2記載の家屋を申請人阪東より賃借し、家族四人で居住し、母親は心不全、気管支炎を患っており、日照は健康上重要なもので従前冬至の際終日存したが、本件マンションが建築されれば、日照は午前八時より同一〇時一〇分ころまでとなる。

(5) 申請人阪東

同人はその所有家屋を右福本、申請外中井、同池田に賃貸しているが、従前冬至の際終日日照があったのに、本件マンションが建築されれば、午前八時から同一一時ころまでしか日照がなく、所有家屋の価値下落は必至である。

(6) 申請人藤原、同畠中

申請人藤原は同畠中からその所有する同目録(四)五2記載の建物を賃借し、印刷業を自営し、同建物に五人で居住しているが、従前冬至の際二階から終日日照を得ていたが、本件マンションが建築されれば、日照は午後二時四〇分ころから同四時までしか得られなくなる。

そして所有者たる申請人畠中は、その不動産の価値を著しく低下させられる。

(7) 申請人榎本

同人は申請外株式会社関西工芸社から同目録(四)六2記載の建物を賃借し、印刷業を営んでいるが、従来から印刷物を天日によって自然乾燥させており、従前冬至の際も終日にわたる二階の窓からの日照が得られており、右乾燥はこれによっていたが、本件マンションが建築されれば、冬至の際終日日照が阻害される。

(8) 申請人渡邊、同東條

申請人渡邊は、同東條の姪の夫であり、昭和四二年ころから同目録(四)七2記載の建物を右東條から賃借し、運送業を営み、かつ右建物に居住していたものであるが、従前一階の東側窓より午前中三時間ほど日照を得ていたが、本件マンションが建築されれば、日照は終日奪われることとなる。

また申請人東条は右日照阻害により、その所有不動産の価値下落は必至となる。

(9) 申請人頼政

同人は同目録(四)八2記載の建物に六人で居住し、従前日照は冬至の際二階から終日得られていたが、本件マンションが建築されると、終日日照が阻害される。

(10) 申請人上島

同人は同目録(四)九2記載の建物に三人で居住し、従前日照は冬至の際二階の窓から終日得られていたが、本件マンションが建築されると、日照は終日阻害される。

(11) 申請人澤井

同人は同目録(四)一〇2記載の建物に六人で居住し、従前日照は冬至の際でも二階の南側、東側の窓から終日得られていたが、本件マンションが建築されると、午前八時三〇分ころから同一〇時ころまでしか日照が得られなくなる。

(12) 申請人北林

同人は同目録(四)一一2記載の建物に三人で居住し、従前日照は東側窓より得られていたが、本件マンションが建築されれば、日照は午前一〇時から同一一時までしか得られなくなる。

(13) 申請人清水

同人は、その所有土地を申請人頼政、同上島、同澤井、同北村にそれぞれ賃貸しているが、前記のとおり、本件マンションが建築されると、いずれもその所有土地の価値が低下し、著しい損害を蒙る。

(三) 被害回避の可能性

申請人らは、その所有する家屋あるいは土地、賃借する家屋によって生計をたて、あるいは住居としているものであり、本件マンション建築による日照阻害から回避する可能性は、唯退去する以外に存在しない。

(四) 加害回避可能性

本件マンション建築工事は、被申請人東洋鉄線が別紙物件目録(一)記載の土地のほか同目録(五)記載の土地約五五二一平方メートルもの広大な敷地を右目録(一)記載の土地に接して所有しながら、そして申請人ら住民に深刻な影響を与えることを十二分に知りながら、敢えて申請人ら住民の居住等家屋に最も接して建築を行うという極めて悪質なものである。被申請人らのかかる態度は、正に跡地利用を「効率的」に行おうとする企業エゴ以外の何物でもない。

ちなみに本件マンションのうち東西に延びる棟(以下これを東西棟と称する。)の規模を被申請人らの計画どおり高さ三一・三五メートル、一一階建にし、かつ申請人らの冬至における四時間の日照を確保するには、現行の建築敷地より南へ三三メートル(ここも被申請人東洋鉄線の所有地であり、現在バッティングセンターの所在地に該当する。)移築すれば可能であり、この建築位置変更により、加害回避の可能性は一〇〇パーセント存在する。

5  建築差止を求める範囲

申請人らは、本来的には本件マンションの全面的建築禁止を求めているものであるが、その理由は、本件マンション建築が位置変更を行わず、かつ申請人らに等しく四時間の日照を保障しようとすれば、東西棟はその南面から北面にかけて六階から四階まで斜めに切り落さねばならず、本件マンションのうち南北に延びる棟(以下これを南北棟と称する。)はそのほぼ中央部最上部を南端として約三〇度の角度で北面に向け、北端部では三階を残す部分まで切り落さざるを得なくなり、このような設計変更を伴う形態を被申請人らが受け入れる可能性はなく、前記の建築位置の変更を求める趣旨からである。

本件の計画地においてマンションを建築する場合に、申請人らにつき冬至の際四時間の日照を確保するためには、東西棟については高さ一〇・八メートル(四階)を超えてはならず、南北棟については別紙図面(三)のイ、ロの各点を結ぶ線を超えて建物を建築してはならず、これらに基づき予備的申請の趣旨を求めるものである。

6  結論

以上のとおり、本件マンションが被申請人らの予定どおり建築されるとすれば、申請人らは冬至の際全員二時間以下、最も深刻な申請人では日照ゼロ時間というおよそ受忍限度を超えた損害及び所有不動産の著しい価値下落を蒙ることは必至である。

よって、申請人らは、その人格権、環境権及び所有権、賃借権に基く妨害予防請求権の行使として、本件マンション建築の差止を求めるものであるが、差止請求等の本訴の確定を待っては回復し難い損害を蒙るため、やむなく本申請に及ぶ次第である。

二  申請の理由に対する認否

1  申請の理由1(一)、(二)の各事実はいずれも認める。

同1(三)(1)の事実中、被申請人長谷工及び同東洋鉄線が本件建築工事の通知をした事実(但し、通知日は昭和五五年一二月一八日である。)、申請外小越組が工場解体を開始した事実(但し、解体着手は昭和五六年一月七日からである。)、昭和五六年一月一六日第一回説明会をもった事実、同月一七日念書を入れた事実、同月二一日「回答書」を提出した各事実はいずれも認める。「守る会」結成の事実は不知、その余は争う。

同1(三)(2)の事実中、住民の要求に一歩も譲歩しなかったとの点は否認し、その余は認める。この時点では再度検討するとの返答をした。

同1(三)(3)、(4)、(5)の各事実はいずれも認める。

同1(三)(6)の事実中、昭和五六年三月一〇日すぎ解体工事を完了したとの点は否認し、その余は争う。

2  申請の理由2(一)(1)の事実中、本件マンション敷地は別紙物件目録(一)のうち四四六八・一四平方メートルであるとの点は否認する。予定敷地は別紙図面(一)の朱線で囲まれた土地一〇筆合計四九六六・九一平方メートルである。その余は認める。

同2(一)(2)、(3)、(4)の各事実はいずれも認める。

同2(二)の事実中、申請人らの居住・使用もしくは所有している家屋の所在地域及び東洋鉄線所有土地の地域が住居地域(第一種、第二種、第三種高度地区でもない)……の指定を受けている、とあるうち、第三種高度地区でもないとの部分を否認し、その余の部分及びその余の同2(二)の事実は認める。

右地域は、高度制限のない容積率三〇〇パーセントのいわゆる第三種住居地域である。

同2(三)、(四)の各事実はいずれも認める。

3  申請の理由3(一)の事実中、開発敷地面積、有効敷地面積はいずれも四九六四・二二平方メートル、建築面積は一七三三・三七平方メートル、建ぺい率は三五パーセント、エレベーター部分は七・七五メートルであり、これに反する部分はいずれも否認し、その余は認める。

同3(二)の事実は認める。

なお、被申請人らの本件建築工事は、確認許可後、本件工事の資材をすべて発注し、既に鉄材等については本件計画どおりの寸法で切断、準備され、又昭和五六年七月九日現在、杭打ち工事もほぼ完了に近い状況になっている。

4  申請の理由4(一)の事実は争う。

同4(二)(1)、(2)、(3)、(4)記載事実中、居住者数及び建物の利用状況は不知、その余は認める。

同4(二)(5)の事実中、所有家屋の価値が下落するとの主張は争う。

同4(二)(6)の事実中、家屋の利用関係は不知、従前冬至の際二階から終日日照を得ていたとの点は否認する。不動産の価値を著しく低下させられるとの主張は争う。その余は認める。

同4(二)(7)の事実中、建物の利用状況は不知、従前冬至の際終日にわたり二階の窓から日照を得ていたとの点は否認し、その余は認める。

同4(二)(8)の事実中、建物の利用状況は不知、従前午前中三時間ほど日照を得ていたとの点は否認し、不動産の価値下落は必至との主張は争い、その余は認める。

同4(二)(9)ないし(12)の各事実中、建物の利用関係は不知、従前日照は冬至の際二階から終日得られていたとの各点はいずれも否認し、その余は認める。

同4(二)(13)の事実中、所有土地の価値が低下するとの主張は争い、その余は認める。

同4(三)、(四)、同5、同6の各事実はいずれも争う。

三  被申請人らの主張

1  本件マンションの建築位置変更の不可能性

申請人らは、本件マンション建築予定地(以下別紙図面(一)の、青線で囲まれた土地を「全体地」、朱線で囲まれた土地を「予定地」、全体地から予定地を減じた土地を「残地」と各称する。)以外に、その南側に東洋鉄線が残地を所有することから簡単に位置変更すべきであると主張するが、次の理由から位置変更は不可能である。

(一) 本件マンション建築事業は、たしかに東洋鉄線と日商岩井の共同事業という形態をとっているが、実質的には日商岩井が東洋鉄線から残地と分離された予定地(既に現場において事実上分離されているし、分筆もされている。)を譲り受け、これにマンションを建築するものである。

前記のような共同事業形態にしたのは被申請人ら各企業間の諸事情からやむなくそのようにしたもので、予定地と残地とは実質では別個の支配関係に属する。

(二)(1) 東洋鉄線の所有する残地には別紙図面(六)記載のとおり、次のような既存建物及び施設がある。①変電室、②危険物倉庫、③オートテニス、④バッティングセンター、⑤稲荷神社、⑥ロック組立工場、⑦本社事務所、⑧製造課事務所、⑨倉庫、⑩タワシ工場

(2) 一方、予定地の大部分は、もと製釘工場及びこれに関連する施設があった場所である。

東洋鉄線は昭和一一年会社創立以前から全体地に工場を持ち、釘、鉄線、錠製品の製造をしてきた。然し乍ら、オイルショック以後の輸出不振及び韓国、台湾の同業種からの追い上げという二重苦にあい、昭和五〇年以降業績不振となった。又製釘は、現況では採算的に全く成り立たなくなったので、製釘部門の閉鎖及び事業縮小により会社建て直しが必要となった。

しかし東洋鉄線には、現在五一名(男三七名・女一四名)の従業員が就労しており、かつ、これらの従業員の大多数が勤続二〇年以上の高齢者であることから、これらの人々の生活権を保障するためにも、事業を止め会社を閉鎖するわけにはいかない状況にあった。

そこで、事業不振により不必要となった製釘工場及びその付属施設跡地を切り離し、残地の既存施設を利用することにより、ステンタワシ製造、ロック製造の事業継続及び新たにバッティングセンター、オートテニス場の経営をし、企業存続をし、従業員の継続雇傭を計り、その生活保障をする必要があった。そして、既に残地の既存施設により右事業を実施し、稼動している。

(3) もし仮にマンション建築の位置を変更するとなると、前記(1)の各施設を全て撤去又は移転せざるを得なくなる。これにともなう東洋鉄線の損害を試算すると総額約七億九八五〇万円という莫大なものとなる。特にオートテニス、バッティングセンターは昭和五四年すでに金七〇〇〇万円以上の投資をして設置し、現在稼動しているものである。又、ステンタワシ、ロック製造は、既存施設の利用によりかろうじて成り立っているものであり、移転・設置という新たな投資による場合は採算的に到底成り立たない。又、その資本的余裕もないことから、位置変更ということになると、一挙工場閉鎖ということにならざるを得ず、このような事態になれば高齢従業員の解雇もやむを得なくなり、各従業員の生活に重大な影響を及ぼすこととなる。

2  申請人らの日照被害について

(一) 申請人藤原、同榎本、同渡邊、同頼政、同上島、同澤井、同北林の各居住・使用建物は、東洋鉄線の工場の約四ないし七メートルという高い外壁の北側に約〇・六メートルと極めて接近して建っており、従前、居住の中心である一階部分の南側窓については日照はなかった。右北林の東側窓についても同様である。二階窓から及び右渡邊の東側開口部に一部日照があった事実は認める。

(二) 住環境としての日照被害を考える場合、直射日照時間のみではなく、採光、通風、眺望、圧迫感、電波障害等の総和としての日照権侵害を考慮しなければならず、本件において従前の住環境と本件マンション建築後の住環境を比較した場合、必ずしも以前より悪化するとはいえない。

すなわち、従前工場と住居はきわめて密着していたのが、本件マンション建築後は住居との間に相当の空間ができ、採光、通風はかなり良くなる筈であり、さらに従前あった工場の騒音、煙害もなくなり、総和としての日照権侵害は存在しないものというべきである。従ってまた申請人畠中、同東條、同清水、同阪東ら主張のその所有土地もしくは家屋の価値低下についても、右記の如き住環境の整備による価格の高騰の可能性はあっても、価格低下をきたすとの蓋然性は極めて少い。

(三)(1) 申請人北村は対象家屋にいまだ居住しておらず、生活権の侵害は考えられない。

(2) 申請人福本、同藤原、同榎本、同渡邊は各該当建物をいずれも賃借しているものであり、被害回避が不可能とはいえない。

3  本件マンション建築予定地の地域性について

本件マンション建築予定地は従前よりの大阪市域で環状線玉造駅から東へ約八〇〇メートルのところに位置し、近い将来には必然的に高層利用が予想される地域である。

本件建築予定地から半径五〇〇メートル以内には、現在一〇階以上の高層建物は存在しないものの、三階乃至八階の中高層建物は既に多数存在している。これら中高層建物は階高において本件マンションより低いが、これは単に敷地面積の広さの関係でこのような階高になっているもので、着々と高層化が進みつつある地域であることは公知の事実である。又、これら中高層建物は建ぺい率一ぱいに建築されていて、北側家屋との関係では間隔がほとんど無くきわめて密着して建てられているのが実情である。

さらに、住居地域である本件土地の周辺地域は商業地域、準工業地域となっている。

四  被申請人らの主張に対する申請人らの反論

1  本件マンション建築位置変更について

被申請人ら主張1の事実を否認ないし争う。

被申請人らは、東洋鉄線の既存施設を移転する場合には、総額約七億九八五〇万円の損害をうけることとなり、企業閉鎖に至ると主張するが、これは移設する必要のないものまで含めて、数字のみを大きくみせかけようとするもので、かかる誇大な主張をして、加害回避可能性のないかのように装うものである。

すなわち、申請人らのために冬至において四時間の日照を確保するために前記東西棟を南へ移動した場合、撤去もしくは移動する施設はバッティングセンター、変電室及び倉庫のみであって、その他の施設には何ら変更をきたさない。

この場合、バッティングセンターの移設費用は約一一七三万円であり(被申請人らはバッティングセンターに七〇〇〇万円以上投資していると主張しているが、バッティングセンターの施設としての重要部分は機械設備(投球設備)であり、これは移動できる。)、変電室、倉庫は不要建物であって、とりこわし費用がかかる程度である。しかも、被申請人らはバッティングセンターについては、すでに一度移転しているところであり、当初から計画的にバッティングセンターを設置すれば二重の投資は防げたのである。

そのうえ、被申請人らは、東洋鉄線の既設建物が移動・撤去不可能であると主張しつつ、本件マンション建築予定地の南側の倉庫をつぶして、「ローソン」というスーパーを建築している。

被申請人らにおいて、申請人らに対する加害を回避することは十分可能である。

2  申請人らの総和としての日照被害について

申請人藤原、同榎本、同頼政、同上島、同澤井の各居住・使用建物の一階南側窓について従前直照日光がなかったことは認めるが、採光についてはこの一階部分にも存在した。

右各申請人ら及び申請人渡邊、同北林の各建物の通風については、従前一、二階を通じてあったことは勿論のこと、本件マンション建築によって一階部分の通風(採光も同様)が従前より改善されるという保障はない。けだし、本件マンション建築に際し、右各申請人らの南側にブロック塀を建築することは必至であるからである。

さらに、総和としての住環境を問題とする場合、本件マンションの建築に伴って右申請人らに対する圧迫感はすさまじいものがある。本件マンションと右申請人らの建物との間隔は前記のとおり近いところで約七メートル、遠いところで一二メートル(バルコニー分をひく)しかないのに、建物の高さは塔屋を除いても地上約三一メートル、東西の長さは約六五メートルで、仰角は約七〇~八〇度に達する。このような巨大な建築物が真近に建築された場合の右申請人らのうける圧迫感は極めて大きい。

3  申請人らの居住地域の特色

申請人らの居住地域は、三階以下の低層建物が立地している地域であって、居宅あるいは家内工業的な居宅兼工場が密集している状況にある。

本件マンション建築予定地から直線距離にして三〇〇メートルをこえる位置には五階以上の中・高層建物があるが、それら建物は、市バス守口今里線沿線、地下鉄中里線緑橋駅附近、国鉄環状線森の宮駅周辺に限られている。

第三当裁判所の判断

一  当事者

1  申請の理由1(一)、(二)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  同1(三)(1)の事実中、被申請人長谷工及び同東洋鉄線が本件建築工事の通知をした事実、申請外小越組が工場解体を開始した事実、昭和五六年一月一六日第一回説明会をもった事実、同月一七日念書を入れた事実、同月二一日「回答書」を提出した事実は、いずれも当事者間に争いがなく、疎明によれば、前記工事の通知日は昭和五五年一二月一八日であること及び前記解体着手は昭和五六年一月七日であることが一応認められる。

さらに疎明によれば、昭和五六年一月六日、申請人らにより守る会が結成され、そのころ長谷工に対し説明会を開くように要求したこと、第一回の説明会で申請人ら住民側から即刻解体工事を中止するよう申し入れたことが一応認められる。

3  同1(三)(2)の事実中、被申請人らが住民の要求に一歩も譲歩しなかったとの点を除き、その余の事実については当事者間に争いがなく、疎明によれば、第二回目の交渉(昭和五六年二月二日)の終了時点では、申請人ら住民のマンション建築位置変更の要求に対し、長谷工は再度検討するとの返答をなしたことが一応認められる。

4  同1(三)(3)、(4)、(5)の各事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

5  同1(三)(6)の事実につき、《証拠省略》によれば、東洋鉄線は前記全体地を所有している事情の中で、マンション建築位置についてはその敷地を予定地から移動させることを拒む姿勢を崩さず、又住民らと会おうとはしなかったこと、解体工事については、昭和五六年七月一〇日時点においても予定部分の一部が未了であること、本件マンション建築工事の着工は同年五月一二日ころであることが一応認められる。

二  建築予定地、被害地及び付近の状況

1  《証拠省略》によれば、本件マンションの敷地については、別紙物件目録(一)記載の土地が換地処分により別紙図面(一)記載の朱線で囲まれた土地となり、これをその敷地とし、その面積は合計四九六六・九一平方メートルであることが一応認められ、この余の申請の理由2(一)(1)の事実は当事者間に争いがない。

2  申請の理由2(一)(2)、(3)、(4)の各事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

3  疎明によれば、申請人らの居住・使用もしくは所有している家屋の所在地域及び東洋鉄線所有の前記全体地の地域が容積率三〇〇パーセントのいわゆる第三種住居地域であることが一応認められ、この余の申請理由2(二)の事実は当事者間に争いがない。

4  申請の理由2(三)、(四)の各事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

三  建築計画の概要

1  申請の理由3(一)の事実中、開発敷地面積、有効敷地面積、建築面積、建ぺい率、エレベーター部分の高さを除き、その余の事実については当事者間に争いがなく、疎明によれば、本件マンションの開発敷地面積及び有効敷地面積はいずれも四九六四・二二平方メートル、建築面積は一七三三・三七平方メートル、建ぺい率は三五パーセント、エレベーター塔屋部分及び高架水槽置場の高さが合計七・七五メートル、容積率二九八・八パーセントであることが一応認められる。

2  同3(二)の事実についても当事者間に争いがないが、本件工事の着工及び進捗状況については、本件手続進行中に変化がみられ、着工については前記のとおり昭和五六年五月一二日ころで、疎明によれば、同年七月七日現在、杭工事の打設は三〇八セットのうち一二〇セットが打設済みであり、杭材や鉄骨その他の建築材料については注文や手配が完了あるいは手配中であることが一応認められる。

四  被害

1  日照、通風等の自然の恩恵は、人が健康で快適な生活を享受するために欠くことのできない生活利益であって、この利益の享受は法的保護の対象であると解すべきところ、この利益が第三者から侵害された場合には、被害者の蒙る被害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超え、単なる損害賠償等の金銭補償をもってしては救済できない段階に達していると認められる限り、加害者に対してその侵害の排除、差止を求めることができると解する。

2  従って、申請人畠中、同東條、同清水、同阪東は、各自所有の土地あるいは建物につき、日照阻害によりその不動産の価格が著るしく低下することを理由に本件マンション建築の差止を求めるものであって、当該土地、建物上で生活しているものではなく、その損害は金銭補償によってまかなわれうることが主張自体より明らかであるので、右記の差止の根拠に照せば、右申請人ら四名の申請については、いずれも理由がないことに帰着する。

3  その余の各申請人らの日照阻害の程度(なお、日照時間については、いずれもG・L面より高さ四メートルを基準とする。)

(一) 申請人吉塚

同人の建物には従前冬至の際終日日照があったが、本件マンションが建築されると、東側居住部分につき午後二時から四時までの日照しか得られないことについては当事者間に争いがなく、疎明によれば、同人は当該家屋に家族九名で居住し、建物の西側部分を鉄工所とし、東側を住居としていることが一応認められる。

(二) 申請人北村

同人は別紙物件目録(四)二2記載の建物には現在居住せず、近々同建物に前記肩書住所地から転居する予定であることは当事者間に争いのないこと前記のとおりであるが、《証拠省略》によれば、現在同人及びその家族が居住する肩書住所所在の建物も右申請人の所有であり、昭和五六年六月現在未だ右目録記載の建物には居住しておらず、ただ近々転居する予定というのみで、いつ転居するのか未定の状況にあることが一応認められる。

なお疎明によれば、右申請人は同目録記載の建物の一階を鉄工所(洋傘骨加工業)として現在も使用していることが一応認められるが、同人は、転居後の生活上の利益としての二階の住居部分の日照の必要性のみを主張し、一階事業所部分の日照の必要性については格別の主張をしておらない。

かかる状況下で、即ち現在未だ当所で生活しておらず、将来いつの時点から居住するのか未確定のものが、将来転居したのちに受けるであろう日照阻害を根拠として、現時点での建築差止を求めることは、これを認容すべき特段の事情なき限り、原則として容認できないものと解する。

(三) 申請人西村

同人の別紙物件目録(四)三2記載の家屋は、従前日照は冬至の際終日存したが、本件マンションが建築されれば、日照は午前八時から同一〇時までとなることについては当事者間に争いがなく、疎明によれば、同人は右家屋(北村の東に接する建物は菓子工場で、その東側が住居)で妻と暮していることが一応認められる。

(四) 申請人福本

同人は別紙物件目録(四)四2記載の家屋を申請人阪東より賃借し、従前日照は冬至の際終日存したが、本件マンションが建築されれば、日照は午前八時より同一〇時一〇分ころまでとなることには当事者間に争いがなく、疎明によれば、同人は右家屋に家族四人で居住し、同人の母(明治四一年一〇月一六日生)は昭和五六年三月四日当時心不全、気管支炎等に罹患し、通院中であったことが一応認められる。

(五) 申請人藤原

同人は、申請人畠中からその所有する別紙物件目録(四)五2記載の建物を賃借していることは前記のとおりであり、本件マンションが建築されれば、冬至の際日照は午後二時四〇分ころから同四時までしか得られなくなることは当事者間に争いがなく、疎明によれば、右藤原は家族五人で右建物に居住するとともに、同建物で印刷業を自営しており、従前冬至の際二階の南側開口部から日照を得ていたことが一応認められる。

冬至の際の日照が終日得られていたとの点については疎明十分とはいえないが、冬至の際の南中時の日影線と南側開口部の位置関係よりすれば、冬至においても従来相当長時間の日照が得られていたものと推測される。

(六) 申請人榎本

同人が申請外株式会社関西工芸社から別紙物件目録(四)六2記載の建物を賃借していることは前記のとおりであり、本件マンションが建築されれば、右建物の二階南側及び東側の開口部の日照が冬至の際終日阻害されることは当事者間に争いがなく、疎明によれば、同人は右建物において印刷業を営み、従来から印刷物を天日によって自然乾燥させており、従前冬至の際にも二階南側及び東側開口部から日照を得ていたことが一応認められる。

冬至の際の日照が終日得られていたとの点については疎明十分とはいえないが、冬至の際の南中時の日影線と南側及び東側開口部の各位置関係よりすれば、二階の東側窓からはほぼ半日近く、南側窓からはほぼ終日に近い日照が得られていたものと推測される。

なお、同人は右建物に居住するものではないが、前記のとおり仕事上不可欠のものとして日照利益を享受して来た経緯があり、日常生活上の日照利益と同様法的保護に値するものと解する。

(七) 申請人渡邊

同人が別紙物件目録(四)七2記載の建物を申請人東條から賃借していることは前記のとおりであり、本件マンションが建築されれば、冬至の際の日照は終日奪われることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右渡邊は家族とともに右建物に居住し、かつ同所で運送業を営み、従前冬至の際にも一階東側開口部より日照を得ていたことが一応認められる。

冬至の際の日照が従前一階東側窓より三時間ほど得られていたとの点については疎明十分とはいえないが、冬至の際の南中時の日影線と一階東側開口部との各位置関係よりして、ほぼ右に近い日照は得られていたものと推測される。

(八) 申請人頼政

疎明によれば、同人は別紙物件目録(四)八2記載の建物に家族六人で居住し、従前日照は冬至の際二階南側開口部及びベランダから得られていたことが一応認められる。

本件マンション建築により、冬至の際の日照が終日阻害されることは当事者間に争いがない。

冬至の際の日照が従前終日得られていたとの点については疎明が十分でなく、冬至南中時の日影線と右建物南側開口部及びベランダの位置関係よりすれば、右開口部のうち東側部分の窓からは、日照が得られたとしても南中時においても窓の上端部分に限られることが疎明され、西側のベランダ部分及びその奥の窓についても右記の如き終日にわたる日照があったかについては若干疑問が残るところであるが、かなり長時間の日照が得られていたことは推測される。

(九) 申請人上島

疎明によれば、同人は別紙物件目録(四)九2記載の建物に家族三人で居住し、従前日照は冬至の際二階の窓から得られていたことが一応認められる。

本件マンション建築により、冬至の際の日照が終日阻害されることは当事者間に争いがない。

冬至の際の日照が従前終日得られていたとの点については疎明が十分でなく、冬至南中時の日影線と右建物南側開口部の位置関係よりすれば、右記の如き終日の日照が得られていたか聊か疑問が残るといわざるを得ないが、かなり長時間の日照が得られていたことは推測される。

(一〇) 申請人澤井

疎明によれば、同人は別紙物件目録(四)一〇2記載の建物に家族六人で居住し、従前日照は冬至の際でも二階の南側、東側の窓から得られていたことが一応認められる。

本件マンションが建築されれば、冬至の際午前八時三〇分ころから同一〇時ころまでしか日照が得られなくなることは当事者間に争いがない。

前記開口部から従前冬至の際終日日照が得られていたとの点については疎明が十分でなく、冬至南中時日影線と右開口部の位置関係よりすれば、右記の如き終日の日照が得られていたかについては多少疑問が残るところであるが、かなり長時間の日照が得られていたことは推測される。

(一一) 申請人北林

疎明によれば、同人は別紙物件目録(四)一一2記載の建物に家族三人で居住していることが一応認められる。

右申請人の従前日照が東側窓から得られていたのはいつの時期かその主張からは明確でないが、他の申請人らと同様に冬至の際の日照につき考慮すると、疎明によるも、冬至の際右建物(平家)の東側開口部から日照が得られていたとは認め難く、かえって、冬至南中時日影線と右開口部との位置関係よりすれば、冬至には従前日照がなかったものと推認される。

他のいかなる時期にどれ程の日照があったのかについても主張、疎明を欠いており、被保全権利の存在につき主張、疎明とも不十分というほかはない。

4  被害回避可能性

被申請人らは、申請人福本、同藤原、同榎本、同渡邊がいずれも建物の賃借人で、被害回避が不可能とはいえない旨主張するが、被申請人らにおいて右申請人らのために現状の借家とほぼ同条件の建物を斡旋するなど特別の事情があれば格別、単に借家人であることのみから被害回避の可能性をいうことは、右申請人らに対し酷を強いるものと考えられる。

5  加害回避可能性

(一) 当事者間に争いのない事実並びに《証拠省略》により一応認められる事実は、以下のとおりである。

(1) 被申請人東洋鉄線は本件マンション敷地である別紙図面(一)記載の予定地のほかに残地、即ち全体地を所有している。

(2) 右東洋鉄線は本件マンションの建築確認申請手続において、被申請人日商岩井とともに建築主として各を連らね、右東洋鉄線が被申請人長谷工との間にとり交わした共同事業協定書の内容においても、右予定地は東洋鉄線が本件マンション建築事業への現物出資をなすものとされている。

(3) 被申請人らは、右は税法上その他の各企業間の諸事情からそのようにしたもので、予定地と残地とは実質では別個の支配関係に属する旨主張するが、前項記載の事実のほか、前記協定書によれば、長谷工が東洋鉄線へ支払う金員を配分金と命名し、その支払時期を本件マンションの竣工時又は昭和五七年三月三一日と規定するなどの諸事情よりすれば、東洋鉄線がすでに本件マンション建築工事に一切かかわりないものとは認め難い。

(4) 本件マンションのうち東西棟を南へ三三メートル(この位置は現在建築中のスーパーマーケットが存在しても、その北側に建築可能な位置である。)移動して建築すれば、申請人らは冬至において日照時間がもっとも短時間のものでも一時間以上の日照を享受することが可能である。

(5) 申請人らを含む前記守る会は四回に亘る長谷工との本件工事に関する会合において、第二回目(昭和五六年二月二日)から一貫して、被申請人らに対し、本件マンションの建築位置の変更を求めてきた。

これに対し、被申請人らは態度が強硬で、位置変更には応じず、就中、東洋鉄線は守る会からこの点につき何らかの返答を求められたに拘らず、これに答えないままであった。

東西棟の建築位置変更については当庁へ本件係属後、当裁判所においても和解案の内容として検討課題にのぼったが、被申請人らに受け容れられなかった。

(6) 被申請人らが建築位置変更を困難と主張する理由の一つとして、被申請人らは、既存施設の移転もしくは撤去につき前記残地に現存するあらゆる施設に影響を及ぼし、その損害は約七億九八五〇万円にも昇り、東洋鉄線の生命を断ち、ひいてはその従業員の生活をおびやかすことにもなりかねない重大な問題である旨主張するが、本件マンションのうち東西棟を南へ移動することにより移動もしくは撤去する必要が生じると考えられるのは、多数の既存施設のうち、バッティングセンター、オートテニス場、変電室、危険物倉庫くらいであって、これらの移動もしくは撤去には相応の費用やその他の影響が生じることは充分予測できるが、被申請人らの右主張の如き莫大な費用を伴うとは考えられず、この負担をもって右東西棟を南へ移設することが不可能とはいい難い。

(7) さらに、マンション建築位置を変更することになれば、建築確認申請のやり直しが必要となり、これに費用を伴う、あるいは南側を敷地とすれば地価が高くなり採算が合わない等の事情があるとしても、これらはいずれも金銭的な問題であり、申請人らの日照権が金銭補償をもってしては補いきれない性質であることよりすれば、これらも又加害回避を不可能とする事情たりえないと考えられる。

(二) 以上の事実よりすれば、被申請人らにおいて、本件マンションのうち東西棟の建築位置を変更(南へ移動)することは、相当の金銭的負担を伴うことは充分予想されるところであるが、申請人らの生活利益として保護されるべき日照権を考慮するとき、加害回避が不可能とはいえないものと判断する。

五  差止の範囲(申請人らの受忍限度)

1  本件マンションが予定どおり建築された場合の申請人らの被害は前記のとおりであるが、申請人らのうち冬至における日影時間が長い申請人榎本、同渡邊、同頼政、同上島に対し、冬至においても四時間の日照を確保しようとすれば、疎明によれば、東西棟については地上より高さ一〇・八メートル(四階部分に該当、四階の天井の高さは一二メートル)以上を、南北棟については塔屋部のほぼ南側最上位から同棟北側面地上より高さ七・九メートル(三階部分の中間に該当)にかけて二八度二七分の角度で斜めに削りとらねばならないことになり、冬至日照確保を二時間としても、東西棟については高さ一一・六メートル以上、南北棟についてはほぼその中央最上位から、北側面地上より高さ八・三メートルにかけて三二度五二分の角度で斜めに削りとらなければならず、いずれも、少くとも東西棟については五階(地上より高さ一二メートル)以上の部分を削りとらなければならないことが一応認められる。

2  申請人らの建物の所在地及び東洋鉄線所有の前記全体地付近には二階建の建物がほとんどであることは前記のとおりであるが、疎明によれば、同じ容積率三〇〇パーセントの住居地域内には、三階ないし五階の建物が点在するが、六階建は一戸、七階建以上の建物は見当らず、半径五〇〇メートル以内に八階建の建物が見られるのは容積率四〇〇パーセントの森小路大和川線ぞいに二戸ほどあることが一応認められる。

3  疎明によれば、本件マンションが建築されれば、冬至ばかりでなく、春分、秋分時においても、申請人頼政は七時間の日影、同藤原、同榎本、同渡邊、同上島、同澤井は五時間から七時間の日影を受けることが一応認められ、同人らに春分、秋分時に四時間以上の日照を確保するには、東西棟につき高さ二〇・七メートル(七階の天井の高さが地上二〇・一メートル)で、南北棟につき一一階の北端の部屋の屋上北端より約二メートル付近の最上部から、同棟北側面地上より高さ一四・五メートルにかけて六〇度四四分の角度で斜めにそれぞれ削りとらなければならないことが一応認められる。

さらに、疎明によれば、春分、秋分時に四時間以上の日照を右申請人らに確保する右の措置を施せば、右申請人らの居住・使用建物と幅員八メートルの道路をへだてて並ぶ申請人吉塚、同西村、同福本の各居住建物につき、冬至において四時間の日照が確保できることが一応認められる。

4  本件マンションのうち、東西棟については前記のとおり建築位置変更による加害回避可能性が認められるが、南北棟については右の如き加害回避可能性は認められず、又、東西棟が申請人らの建物の南面を大きく塞ぐ(東西棟の東西の長さ五二・四メートル、内一・二メートルはバルコニー部分)のに対し、南北棟は東西の幅一一メートル(別途バルコニー等部分二・六メートル)で、日照阻害や圧迫感を与える影響も、東西棟に比べれば、南北棟の影響は左程大きいものではないものと考えられる。

5  疎明によれば、東西棟の高さは、一一階建であれば軒の高さ三〇・九メートル(最高高さ五一・三五メートル)であるが、七階建となれば軒の高さ二〇・一メートル(最高高さ二〇・五五メートル)となり、一〇・八メートル低くなることが一応認められ、前記道路より南側に居住等する申請人藤原、同榎本、同渡邊、同頼政、同上島、同澤井にとって、その圧迫感はかなり改善されるものと考えられる。

6  日照権の侵害につきその受忍限度を考慮するとき、被害者が受ける被害については単に冬至の際の日照時間のみならず、採光、通風、眺望、圧迫感や電波障害等の総和としての住環境を併せ考慮するのが適切と考えられるところ、以上記述した諸々の事情を併せ考慮すると、申請人吉塚、同西村、同福本、同藤原、同榎本、同渡邊、同頼政、同上島、同澤井については、前記東西棟の地上より高さ二〇・七メートルを超える部分(ほぼ八階以上の部分に該当)は右申請人らの受忍限度を超えているものと判断する。

因に、被申請人らが予定どおり東西棟につき一一階(一部九階)のまま建築しようと考えれば、その建築位置の変更により、適法にその建築をなしうる余地があること前記四の5に記述したとおりであり、現時点においてもその検討の余地は皆無とはいえないものと思料される。

六  保全の必要性

本件マンションが原設計どおり完成してしまえば、後日申請人らが建築差止請求等の本案訴訟で勝訴確定しても、その際右建物の一部を除去することは著しく困難となることが明らかであるから、保全の必要性も認められる。

七  結論

以上の次第であるから、申請人吉塚、同西村、同福本、同藤原、同榎本、同渡邊、同頼政、同上島、同澤井の本件申請は主文第一項掲記の限度で理由がある。

その余の申請人らについては、被保全権利の存在につき主張自体失当であるかもしくは疎明不十分であり、本件事案の性質上疎明不十分につき保証を立てさせて被保全権利の疎明に代えさせることも相当でないから、同申請人らの本件申請は却下することとする。

主文第一項掲記の申請人らの右認容部分については、前記の諸事情を勘案すれば、同申請人らに対し共同して金九〇〇万円の保証をたてさせるのが相当であるから、これを本決定送達の日から七日以内にたてさせることとする。

よって、申請費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 谷敏行)

<以下省略>

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